相続した不動産を「共有名義」にしない方がいいワケ

親から実家などの不動産を相続する際、兄弟姉妹など複数の相続人で「共有名義」にしようと考えるケースは少なくありません。
法定相続分通りに分ける最もシンプルな方法に見えますが、実は将来にわたり大きなトラブルの種となる可能性があります。

1. 売却や賃貸など活用が困難になる

不動産を共有名義にすると、その不動産に関する重要な意思決定を行う際に、共有者全員の同意が必要になります。

  • 売却(処分行為): 不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が必要です。一人でも反対すれば売却はできません。
  • 賃貸(管理行為): 長期の賃貸契約を結ぶ場合(例:建物の賃貸)は、共有持分の過半数の同意が必要です。
  • 修繕(保存行為): 軽微な修繕は単独で行えますが、大規模なリフォームなどは共有者全員の同意を求められることがあります。

たとえあなたが「もうこの家は不要だから売りたい」と思っても、他の共有者の一人が「思い出があるから売りたくない」と反対すれば、いつまでも売却できず、固定資産税だけを支払い続けることになりかねません。

2. 次の相続で権利関係がさらに複雑に

共有名義の最大の落とし穴は、「次の世代への相続(数次相続)」が発生したときに、権利関係がネズミ算式に複雑化することです。

例えば、兄弟3人で実家を共有(持分1/3ずつ)していたとします。そのうちの一人Aが亡くなると、Aの持分1/3はAの配偶者や子供たちにさらに細分化されて相続されます。

  • 最初の共有者: 3人
  • 数次相続後: 5人〜10人以上になる可能性も

このように共有者が増え、関係性が遠くなるほど、連絡は取りにくくなり、意見をまとめるのが不可能に近くなります。「誰も住まない、売ることもできない、固定資産税だけがかかる”負動産”」を生み出す原因となってしまうのです。

3. 自分の持分だけでは活用が難しい

自分の持分(例えば1/3)だけを誰かに売却することは可能ですが、そのような「一部の持分」を買い取る第三者はほとんどいません。なぜなら、その持分を持っていても、前述の通り他の共有者が同意しなければ活用できないからです。結果として、自分の持分を現金化したいと思っても、相場よりもはるかに安価でしか売れないといった事態になりがちです。

💡 対策:共有を避ける「遺産分割」の検討

共有名義を避けるためには、遺産分割協議で以下のような方法を検討することが大切です。

  • 代償分割: 一人が不動産全体を相続し、その代わりとして他の相続人に金銭(代償金)を支払う
  • 換価分割: 不動産を売却し、得られた現金を相続人同士で分ける
  • 現物分割: 複数の不動産がある場合、それぞれの不動産を特定の相続人が単独で取得する

共有名義は、相続発生時は公平に見えても、将来的に共有者全員を悩ませる「負の遺産」になりかねません。後の世代に負担を残さないためにも、遺産分割の段階で話し合い、「誰か一人の単独名義」になるように整理することが、最も円満な解決策となります。

遺産分割、相続税申告でお悩みの場合は、相続に詳しい柴山淳子税理士事務所に是非ご相談ください。


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